とっておき産地訪問記 福島 桃

フルーツ王国「福島県」。

りんご、さくらんぼ、ぶどう、梨、干し柿、すもも、そして「桃」。
一年間を通じて豊富な果物を産出する福島県はフルーツ王国と呼ばれています。
特に「桃」は、山梨県に続き、全国2位の収穫高。福島県のフルーツ産出額の33%を占め、第一位です。
福島の桃のほぼ90%は、県北部の福島市・伊達市周辺で収穫されています。
夏は桃の収穫の最盛期。
高校球児の季節でもあります。
全農福島県本部では、ひとつひとつの桃に思い込めている生産者の気持ちと、高校球児の一球に込める思いを一枚のポスターで表現しました。2009年7月末、首都圏と阪神電車の車内ポスターに掲載されました。

「農協果汁 とっておき国産 もも」の原料産地、福島県北部の桃農家をお訪ねして、桃の美味しさの秘密をお伺いしました。

養蚕から桃畑へ

福島市・伊達市を含む県北部は、古来より養蚕(ようさん)の盛んな地で桑畑が広がっていました。
時は流れ、養蚕の衰退とともに、桃畑へと転換がはかられました。
冬は寒さが厳しく、夏は蒸し暑い気候が、美味しい桃を育てました。

昭和30年ごろから本格的に桃を栽培するようになり、「大久保」「白鳳」などの品種が盛んに作られるようになります。
昭和40年から50年なかばまで、福島県は日本一の桃の生産地でした。

桃の木1本の経済的寿命は、約20〜25年くらい。
種から育てるのではなく、全て接木で世代交代していきます。良い実がなった枝を選別して、接ぎ木して世代交代していくので、良いものが残ります。

福島の銘桃「あかつき」

昭和34年、農水省の果樹試験場で、味がよく日持ちする「れ-13号」と呼ばれる品種が育種され、全国の桃生産産地で試作が進められました。
しかし、小玉だったため福島を除く他県は商品化をあきらめてしまいました。
福島では当時の県の果樹試験場と農家が粘り強く栽培技術の確立を目指しました。約20年後、昭和54年についに、肉質が緻密、果汁が多く、高糖度で甘みが強く微酸で極上のうまさの品種が誕生しました。
その品種は、市の中心地北部位置する福島のシンボル、信夫山「暁まつり」にちなんで、「あかつき」と名づけられました。

昭和55、56年に冷害があり、主力の「白鳳」に比べ、「あかつき」は品質が落ちなかったため、福島の主力品種になりました。
いまでは、福島の銘桃として全国に知られています。

あかつきの枝変わりの品種として早生種「暁星(ぎょうせい)」があります。「あかつき」より7〜10日早く収穫が始まります。
7月から9月、早生種から晩生種までつぎつぎに多くの品種が出荷されていきます。

農家は、収穫が一度に集中しないように、複数の品種を育て、収穫しています。

福島県桃の2大産地、「JA新ふくしま」の桃部会長 橋本正美さんと、「JA伊達みらい」桃部会長 蓬田(よもぎだ)幸夫さんの畑にお邪魔してお話をお伺いしました。

「JA新ふくしま」橋本部会長(58歳)

橋本さんは、若いころはサラリーマン。奥様の実家が桃農家。跡継ぎがいなかったため、説得され、昭和58年から奥さまの実家を継ぐことに。
桃のほかに、りんご、さくらんぼを作っておられます。

桃は、140アールの畑に、400〜500本あり、年間収穫量は約35t位で、早生種2割、主力の「あかつき」4割、晩生種4割で、7月初めに「はつひめ」から、9月の「さくら白桃」約13品種を栽培しています。

橋本部会長

「桃の収穫は、午前4時から昼の12時まで。桃は、りんごやさくらんぼと違って収穫を待ってくれないから、家では、パートさんを2〜3人雇って、土、日や雨の日も休みなしです。
ただでさえ真夏の収穫なのに、桃の着色をよくするために、反射シートが敷いてあるので、下からもジリジリと照らされて本当に暑い!」と。
真夏の桃の収穫は大変ですが、喜びもひとしおです。

収穫は他人に任せない

桃の果実はとてもデリケート。皮を傷つけたり実を
へこませたりしないためにも、収穫は素手で、一個ずつ丁寧にもいでいきます。
「一本の木からどの実が収穫できるか、触っただけでわかる。
触った感じのしっとり感、もやっとしている。まだなのは、毛羽(けば)立っている。」
「この感覚は、長年桃栽培をやっている人にしかわからない。人には任せない作業だね」と橋本さん。

「桃は、気温が高くなる前の、果実がひきしまって
いる時に収穫するんだ。
温度が高くなると果実がやわく(柔らかく)なり、搬送で傷がつきやすくなるからね。」
朝早くから午前中に収穫しなければならない理由は、ここにあります。

そして、生食用に、昼までに選果場へ、専用のプラスチックコンテナ(プラコン)に詰めて運びます。
一番忙しい時期は、「あかつき」の収穫時だそうです。

1個の桃に、20回位の世話が必要

「桃農家は一年のうちで、12月以外は休むことはないね。でも、その時期はりんごがあるし(笑)。」と橋本さん。

福島の桃の花の見頃は、4月20日頃、でも、お花見をしている暇はありません。
摘果などで、最初の花の数からすると、1/20程度しか残らないそうです。
桃農家の農作業を数えてみると・・

1.枝の剪定
2.摘蕾(てきらい:つぼみのうちに落とす)
3.受粉
4.摘花(てきばな)
5.予備摘果
6.仕上げ摘果
7.修正摘果
8.2度目の修正摘果
9.着色時に葉を摘む
10.果実に袋をかける(福島の桃は無袋が主流)
11.除袋
12.着色した桃の木の下に反射シートを敷く
13〜18 収穫は1本を4〜5回に分けて
19.反射シートを、次の収穫の品種へ移動
20.お礼肥(おれいごえ)

種が1個の桃は、種が沢山あるりんごやなしなどに比べると、非常に敏感で、世話にも気を使うそうです。
着色管理も重要で、福島の桃はとてもきれいな赤色が特徴です。

「桃は自分の子供みたいなものだね。ほとんど一人で作業している。
最初の一杯蕾がある時は、人に頼むが、その後は、全て一人でやるよ。

剪定の時から、いい位置で収穫しやすいように。
どこに成らせるといいとか、気温が高くて収穫が早まりそうな年は、根元の方に残すとか、技術があるんだ。人にまかせられないね。」

こういう橋本さんの技を、「巧(たくみ)の技(わざ)」だと、JA新ふくしまの佐藤センター長は言います。

桃だけではない農家は、更に、次の収穫や他の農作業が待っています。

環境にやさしい「コンフューザー」の使用

福島の桃は、果実に袋をかけない無袋栽培が中心ですが、栽培面でも農薬の殺虫剤使用を減らすため、全国に先駆けて性フェロモン剤を利用した害虫の防除体系を確立しています。

「コンフューザー」と呼ばれる赤いチューブを、目の高さの枝に、ひっかけて使用します。
性フェロモン剤とは、害虫の雌が出す特殊な匂いを、化学的に合成したもので、チューブに浸みこませてあります。
匂いを頼りに雌を探し出す雄を、かく乱し、阻害させることで、交尾ができなくなり、農薬(殺虫剤)の使用量を減らすことができます。
性フェロモン剤は、人体への影響もなく、自然環境にやさしいです。
最近、「殺虫剤をあまり使ってないから、園地には夕方、蚊の発生が多くて、よく刺される。クモの巣もすごくあって、害虫を取ってくれるんだ。」

桑折(こおり)の桃源郷

伊達(だて)市の東、阿武隈川沿いに広がる120haの広大な桃畑。4月には一面ピンクの桃の花が満開に。
まるで桃源郷のようになるといいます。

ここにはJA伊達みらいの桃畑があります。
桃部会長で、生産者の蓬田(よもぎだ)幸夫様(58歳)にも、お話を伺いました。

蓬田さんは、桃を作り始めて2代目で、現在の桃畑は2町5反で、生果50tを出荷し、自家用の水田は少しなので、桃専業農家と言ってもいいそうです。

蓬田 幸夫様

桃畑の一部は苗木で、次の新品種を接木で準備中。
「桃栗3年柿8年」と言いますが、実際は収穫まで5年はかかるそうです。

蓬田さんも7月中旬から、早生の「山梨の花嫁」の収穫から始まり、主力の「あかつき」、9月末まで晩生の「せいおうぼ西王母」、10月上旬の「金山」まで続くそうです。
橋本さんと同様、早生3割、「あかつき」3割、晩生3割と、収穫時期を分散させています。
 

「ここ(JA伊達みらい)は、JA新ふくしまに比べると、どの品種も2〜3日収穫が早い“早場(はやば)地帯”なんだ。
選果場は、9月中旬のお彼岸までしか稼働していないから、それ以降は、自分達で箱詰めして発送するんだよ。一番忙しいのは収穫時期。今だよ!(7月中旬)

今年は風でかなり落とされてね。
天候が悪くて、自分も納得できないもの、消費者に喜んでもらえない時がつらいね。」

収穫は、26歳になる双子の息子さん達と、蓬田さんの3人で。
やはり「他人には任せられない」と蓬田さんもおっしゃっていました。

「やっぱり桃は、生果(生で)召し上がってほしいね。それが一番だけど、個人的には、完熟の桃(手で皮がむける位)を冷凍して、少し溶け始めに皮を剥いて食べる。シャーベット状にして食べると旨いよ。」と産地ならではの話を教えてくれました。

皇室への「献上桃の郷」

国道4号線には、「献上桃の郷」の看板が立っています。
JA伊達みらいでは、主力「あかつき」の出荷ピークの7月30日頃に、選果場に入った桃の中から特選桃をミス「ピーチ」が選別し、天皇家および皇太子、宮家へ、献上しています。
平成6年から15年続いているそうで、毎年TV局も取材にやってきて福島の夏の風物となっています。

光センサーで選果

収穫された桃は、ここ桑折(こおり)共同選果場はじめ各地の選果場で、厳密に選別されています。
この選果場では最先端の光センサーで、熟度、糖度、外観、着色。4項目を瞬時にチェック。

以前は着色優先だったそうですが、今はセンサーの感度も向上し、糖度優先で、下記の格付表で、分別して箱詰めし、格外は絞汁工場へ送ります。

活気のある選果場

桃農家から運ばれた桃

光センサーにかけられる桃

別された数を表示

特選 糖度15度以上、色・形が美しい
特秀 糖度12.5度以上、色・形が美しい
青秀 糖度10.5度以上、色・形が美しい
赤秀 糖度 9.0度以上、色・形が良い

5kgに何個入るか?で、13玉、15玉、16玉、18玉、20玉、22玉、25玉の7段階に分別。

桃は、食味イコール糖度ではなく、食味、食感、糖酸度のバランスが重要です。

昔は、桃は堅いものでしたが、嗜好の変更で、柔らかい食感が好まれています。
産地直送で送付すると「固い」と苦情が来ることがあるそうですが、追熟で2〜3日置いておくと、皮が手で剥けるほどの柔らかさになります。

美味しい食べ方は、冷やしすぎずに、食べる1〜2時間前に冷蔵庫に入れて下さい。
特選の15,000円/箱クラスになると、一日に数箱しか出ないそうです。

選果場は、一日最大で、1.6万箱×平均20玉=32万個の桃が動きます。
延べ170人が、朝8時〜19時まで(多い時は23時まで)交代制で、作業します。

選果場内にある直売所

絞汁(さくじゅう)工場

農家から原料の桃が工場に運ばれてきます。
コンベア上でシャワー洗浄した後に、選果基準に則り、傷みの多い桃を手作業で取り除き、粉砕し、酵素処理を経て圧搾。濾過、殺菌、冷却などの工程を経て、ドラム缶へ詰めて冷蔵保管します。

製品にするには、メグミルク日野工場へ原料を運び、風味を調整して、パッケージに充填します。
全てがオートメーション化された近代設備と徹底した品質管理のもとで、ももジュースが作られています。

編集後記

生産者の橋本さんや蓬田さんをはじめ、一生懸命育てた福島の桃は、「とっておき国産もも」の原料となって、いつでもどこでも福島のおいしい桃の味をお楽しみいただけます。
今回の取材は、収穫時期の忙しい時期に、生産者の橋本様、蓬田様とJA全農福島県本部、JA新ふくしま、JA伊達みらい、選果場工場、絞汁工場の皆様にお世話になりました。ありがとうございました。
取材した日は、福島でも特に暑い36度まで気温があがった日で、取材後に採りたての固めの桃を頂き、美味しかったです。ごちそうさまでした。

(2009年10月末)